特定技能(介護)人材を受け入れている介護施設において、現場指導者から最も頻繁に挙がる悩みの1つが、「指示を出した際に『はい、大丈夫です』と返事をするが、実際には業務内容が伝わっておらず、誤った手順で作業を行ってしまう」という確認不足によるエラーです。
多くの現場では、これを「本人の確認不足」や「返事の適当さ」として捉えがちですが、その背景には異文化理解(文化性)とコミュニケーション文脈(問いかけの構造)に起因する明確な要因が存在します。
本コラムでは、外国人スタッフが「分かっていないにもかかわらず『大丈夫』と返答してしまう」行動メカニズムについて解説します。
1. 「面目を保つ」異文化コミュニケーションの心理
東南アジア諸国(特にインドネシア等)出身のスタッフは、対人関係における「調和」や「相手への敬意」を非常に重視します。
- 拒絶・否定の回避: 彼らの文化的背景において、目上の者(指示者)に対して「分かりません」「できません」と回答することは、相手の指導力に対する否定や、自身の能力不足を露呈して場を気まずくさせる行為とみなされる場合があります。
- 肯定的返答の優先: したがって、指示の理解度にかかわらず、まずは「指示を受け止めた」という姿勢を示すために「はい」「大丈夫です」という肯定的返答を優先する傾向があります。
2. 認知負荷による「質問不能状態」
日本語を母語としないスタッフにとって、現場での業務指示をリアルタイムで聴取・解釈するプロセスは、脳内に非常に高い言語的負荷(認知負荷)をかけます。
指示の全体像を捉えきれていない場合、スタッフは「自身の理解がどこで止まっているのか」を言語化して質問する余裕がありません。結果として、最も簡便な定型句である「大丈夫です」を発話してその場の会話を収束させようとします。
3. 「クローズド・クエスチョン(誘導質問)」の限界
現場の日本人スタッフが多用する「分かった?」「大丈夫?」という問いかけは、構造上「YES / NO」の二者択一を迫る「クローズド・クエスチョン」です。
関係性が確立していない初期段階において、指示者に対して「NO(大丈夫ではない)」と答えることは精神的ハードルが極めて高く、この問いかけ自体が「はい(YES)」という回答を無意識に誘導してしまっているという側面があります。
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